抵当不動産の強制換価を回避するためにお母様が娘さんに提供した資金に係る一連の課税関係

こんにちは、日本橋人形町税理士の渡邊美弥子です。

先日のブログ『抵当不動産の強制換価を回避するためにお母様が娘さんに提供した資金に係る一連の課税関係』について紐解いていきます。

—あらすじ—

債務超過でY社への借入金返済能力が全くないX社の保証人であるAさんの旦那さんは、会社再建のため私財をつぎ込み使い果たしてしまい、保証債務を履行することが出来ません。

このままでは、X社借入金のために担保提供しているAさん夫婦が住む土地と家屋が差し押さえられてしまいます。

この土地と家屋は、Aさんのお父様が生前所有していたもので、その当時、X社借入金のために抵当権が設定されました。

そしてお父様がお亡くなりになられた時に、その土地と家屋をAさんが相続しました。

ちなみに、お父様の相続における共同相続人の相続割合は、Aさんのお母様が5、Aさんが3、Aさんの妹さんが2でした。

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どうしたものかと、Aさん夫婦と、Aさんのお母様、妹さんの4人で話し合い、X社の借入金返済額4000万円をAさんのお母様から提供してもらう事に決めました。

無事、提供してもらったお金で、Y社に返済し、Aさん夫婦が住む土地と家屋の抵当権を抹消することが出来ました。(X社に対する求償権は行使不能)・・・しかし、その年にAさんのお母様がお亡くなりになってしまいました。

—民法のあてはめ— 2020年4月1日民法改正施行されています。便宜上改正民法によることとします。

【民法第501条第3項の4】(弁済による代位の効果)(旧民法第501条第5号)

要約・・・債務について保証人と物上保証人がある場合において、保証人又は物上保証人が債務者の債務を弁済したときは、保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。

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Aさんが4000万円をもって、X社の借入金を代位弁済しましたが、X社に対する求償権は行使不能であるため、保証人のAさんの旦那さんと、物上保証人(担保物件提供者)のAさんが、各自2000万円 づつ負担することになります。

【民法第911条】(共同相続人間の担保責任)

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

→ ちょっとこの条文を読んだだけでは、意味が分かりにくいと思いますので、もう少し噛みくだいてみます。

相続した遺産に欠陥があるとき、その遺産を相続した相続人に対して、他の相続人は、相続分(遺産分割等により取得した財産の価額の割合)に応じて分担してその責任を負います。

売買契約の場合、原則、売り物に欠陥があった場合は、前所有者である売主の責任で損失をカバーしなければなりません。しかし、相続の場合は、財産の所有者が亡くなっているため、この原則を使うことが出来ません。損失をカバーしてくれる人がいないとなると、欠陥のある遺産を相続した人に不利益が生じてしまうので、相続の場合でも、売買契約の売主と同じ責任を他の相続人も負いますよ!

…ということです。

【民法第570条】(抵当権がある場合の買主による費用の償還請求)(旧民法第567条第2項) 

買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権、質権又は抵当権が存していた場合において、買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用の償還を請求することが出来る。

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物上保証人の負担額2000万円は、共同相続人間の担保責任により、Aさんのお父様の共同相続人が具体的相続分に応じて負担することになります。

Aさんのお母様は、2000万円 × 5/10 = 1000万円

Aさんは、2000万円 × 3/10 = 600万円

Aさんの妹さんは、2000万円 × 2/10 = 400万円

以上をまとめると・・・・

Aさんのお母様がAさんに渡した4000万円は、AさんがX社の借入金を代位弁済しX社に対する求償権行使不能である場合に、Aさんのお母様が1000万円、Aさんが600万円、Aさんの妹さんが400万円、Aさんの旦那さんが2000万円負担することとなる金額全てを負担する目的で、あらかじめ、Aさんに預託した金銭ということになります。

—各人の課税関係—

Aさんのお母様・・・お母様が負担すべき1000万円は、自己の預託金で賄われているので、課税関係は生じません。

Aさん・・・Aさんは、お母さまから預託された金額のうち、自身が負担すべき金額600万円の債務免除を受けたことになります。

Aさんの妹さん・・・Aさんの妹さんが負担すべき400万円は、お母さまが負担したことにより、債務引受けによる利益を受けたことになります。

Aさん及びAさんの妹さんが、受けたこれらの利益は、お母さまがお亡くなりになる年、平成29年に受けた利益なので、贈与税の課税対象ではなく、被相続人Aさんのお母様の相続に係る各人の相続税の課税価額に加算され、相続税の課税対象となります。

Aさんの旦那さん・・・ご本人が負担すべき2000万円をAさんのお母様が負担してくださったので、債務引受けにより受けた利益として、平成29年の贈与税の課税対象となります。(仮に、Aさんのお母様から遺贈される場合は、この2000万円は、贈与税の課税対象ではなく、相続税の課税対象となります。)

※相続開始の年に、被相続人から贈与により取得した財産は、贈与税の課税対象とならないで、相続税の課税対象となります。(相法19,21の2④)

—Aさんの旦那さんにおける、相続税法第8条のあてはめ—

相続税法第8条の要約:個人が債務の免除又は、債務の引受けにより利益を受けた場合は、その免除又は引受けをした者(個人に限る)から受けたその利益相当額を贈与により取得したものとみなします。ただし、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、債務の免除を受けたとき又は債務者の扶養義務者によって債務の引受けが行われたときは、その債務の免除又は引受けにより受けた利益に相当する金額のうち、債務を弁済することが困難であると認められる部分の金額については、贈与により取得したものとみなされません。

ここでいう「扶養義務者」とは、配偶者並びに、直系血族及び兄弟姉妹並びに家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三等親内の親族のほか、三等親内の親族で生計を一にする者となります。

Aさんのお母様は、Aさんの旦那さんから見て三親等内の親族ですが、家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となったわけでもなく、生計を一にしているわけでもないので、扶養義務者による債務の引受けに該当しません。

以上の事から、Aさんの旦那さんは、資力を喪失して債務を弁済することが困難であるため、Aさんのお母様による債務の引受けがありましたが、このAさんの旦那さんが受けた利益は、義理のお母様から贈与により受けた利益とみなされます。

仮に、Aさんの旦那さんが、この贈与税を納付することが出来ないときは、贈与者であるAさんのお母様の相続人であるAさんとAさんの妹さんが連帯納付義務を負います。(相法34④)←←←こうなったらAさんの妹さんは「なんで?」・・と理解するのが難しそうですね。。。

この事案は、税理士がお客さまとの長い付き合いの中で生じたものならば、一連のいきさつが見えますが、単発で引き受けた事案ならば、詳しく聴きとり、証書・証憑を収集して(不動産登記簿を見ればいきさつの大枠はつかめそうですね)事実確認をして、私法上の取引の民法のあてはめをしてから、税法のあてはめを行うことになりますね。

コロナ前は、このような事案を題材とした税理士仲間の勉強会が頻繁に行われていたのですが・・・なかなか今は、気軽に人様と会えるような状況でないので・・・本当にこの状況から抜け出したいですね。色々な意味で・・・・

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一緒に成長していきましょう!

渡邊美弥子税理士事務所

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渡邊美弥子